神宮外苑再開発事業へ山口敏夫元労働大臣が緊急提言!
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  • ✎IRIEP山口敏夫代表理事・会長
  • 2023/09/15

私は今夏「神宮外苑再開発事業」に対して、民意をないがしろにし、戦時下のごとく計画を強硬する4事業者の三井不動産株式会社、明治神宮、独立行政法人都市再生機構、伊藤忠商事株式会社と事業を許可した東京都に向けて緊急提言を行った。

緊急提言
神宮外苑の再開発、遺産危機警告 全八部構成



緊急提言書は1000部以上を印刷し、東京都都議会議員、国会議員他関係者多数へ自ら配って歩いた。作成にご協力いただいた各位にはこの場を借りてお礼を申し上げたい。

さて、「神宮外苑再開発事業」に対して私が何を言いたかったのか。振り返るにはまだ早いが、事業の撤回を求める声は国連機関にまで至って、いまも国内では反対運動、抗議活動が行われており、さらには集団訴訟が起こされ法廷で争われている。国民、都民と裁判で争っている原告他、意を同じとする国民、都民の支援者として、私も都民の一人としてこの問題を伝えたいと思う。

明治神宮内外苑付近が風致地区第一種、第二種に指定されたのは大正15年10月4日である。いまから約100年前のことである。風致地区は、自然的景観を維持するため、都市における風致の勝れた区域が指定されている。1919年(大正8年)の旧都市計画法で制度化され、現都市計画法第8条第1項第七号に定めている。

東京都は、明治神宮内外苑付近の風致地区をもっとも厳しいA、Bの指定からS地域に変更されたあとの2022年2月17日、神宮外苑地区第一種市街地再開発事業(以下、神宮外苑再開発事業)の施行を認可した。小池都政の重大な失政を歴史に刻んだ愚かな決定の瞬間である。

東京都が神宮外苑再開発事業を認可したのはなぜか。私の答えは、事業の当事者、関係者、許認可を下す行政とその決定者に至る者の文化財に対する思慮と価値意識の欠如である。加えて、企業経営と経済成長で判断することしかできなくなった経営者並びに政策を判断する者の資質の低下である。

私は、愚かな計画を策定し、計画を承認者した者を糾弾するつもりはない。先人が残し伝えてきた遺産を私が生きているこの時代で破壊し、無くしてしまうことに政治家として切歯扼腕の心情を伝えたい一心からである。

再開発の影響を受ける神宮外苑を象徴する4本のいちょう並木は、国道246号線、青山通りから東京都道414号四谷角筈線(よつやつのはずせん)へ入るとその姿を現す。いちょう並木の季節ごとの変化はとても美しく、並木道は憩いの場所、観光の名所となっている。



いちょう並木道に入ってすぐ、起点の右側には碑文「明治神宮外苑之記」が建っている。建てたのは、明治神宮奉賛会会長の徳川家達氏である。「銀杏並木」については、平成2年11月12日、平成御大礼の日に明治神宮外苑が掲示を建てた。



『明治神宮外苑之記』と由来を伝える掲示


銀杏並木を伝える掲示

碑文「明治神宮外苑之記」は、明治神宮の御創建を後世に伝えている。明治神宮内苑・外苑が如何に歴史的かつ文化的な財産であることが分かる。だがその地域は、東京都の中心にあって、そこを再開発したがるデベロッパーや営利企業、欲を出す輩が現れるのは当然だった。100年が経ち、行政の精神も薄れ、綻びが出るのも年月の流れなのかもしれない。

果たしてそれだけか。これほどの文化遺産をいとも簡単に破壊することを選択できるのには理由があるはずだ。行政のすべての職員が歴史的文化遺産の価値を見誤るはずがない。ましてや、音楽家の坂本龍一氏をはじめ、多くの著名人が事業計画の停止を求める神宮外苑の地なのである。

止めることのできない力はどこから働いたのか。カネと権力であることは間違いないだろう。行政は縦割り、企業もトップダウン、逆らうことのできない現場に課せられたのは、法的に問題のないように如何に理屈をつけることだろうと思う。東京都が認可をしたときの報道発表をもう一度見てみよう。

「東京都は、都市再開発法第7条の9第1項の規定に基づき、神宮外苑地区第一種市街地再開発事業の個人施行を下記のとおり認可しますのでお知らせします。本地区の市街地再開発事業の施行により、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を行うとともに、地域の賑わい形成、歩行者の利便性、安全性及び回遊性の確保、防災性の向上や環境負荷の低減を図ります。」

都市再開発法第7条の9第1項の規定に基づき認可するとある。根拠法は「都市再開発法」である。法律に違反することなく再開発事業の認可をしたのだと言っている。しかし、認可の前に先述した風致地区の指定を変えているのである。用意周到、ずる賢い者はどうすべきかを心得ての対応だろう。では、もう一つの法律についてはどうだったか。

それは「文化財保護法」である

明治神宮内苑・外苑が歴史的かつ文化的財産を有することが明らかであることを踏まえると「都市再開発法」より「文化財保護法」を重視すべきであった。法律の目的と定義から抜粋して示そう。

(この法律の目的)
第一条 この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする。
(文化財の定義)
第二条 この法律で「文化財」とは、次に掲げるものをいう。
一 建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料(以下「有形文化財」という。)
二 演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(以下「無形文化財」という。)
三 衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術及びこれらに用いられる衣服、器具、家屋その他の物件で我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの(以下「民俗文化財」という。)
四 貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとつて歴史上又は学術上価値の高いもの、庭園、橋梁りよう、峡谷、海浜、山岳その他の名勝地で我が国にとつて芸術上又は観賞上価値の高いもの並びに動物(生息地、繁殖地及び渡来地を含む。)、植物(自生地を含む。)及び地質鉱物(特異な自然の現象の生じている土地を含む。)で我が国にとつて学術上価値の高いもの(以下「記念物」という。)
五 地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの(以下「文化的景観」という。)
六 周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの(以下「伝統的建造物群」という。)

文化財とは、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群と定義されている。明治神宮内苑・外苑は、文化的景観であると思う者は私を含め大多数と思う。しかし、国の重要文化的景観には指定されていない。これが再開発を認可することを防げなかった一因であると考えられる。

明治神宮内苑・外苑が重要文化的景観に指定されていれば、国と東京都は明治神宮内苑・外苑を適切に保存しなければならなかった。

(政府及び地方公共団体の任務)
第三条 政府及び地方公共団体は、文化財がわが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、且つ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもつてこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない。

都民が、国民が、著名人が、さらには国境を超えて世界の人々が、行政と事業者に対して再開発事業の中止を求めても理屈を盾に意に介さないのは、先人への敬意と受け継ぎ残し伝えていく文化遺産と民主主義を忘れたからであろう。現東京都知事が都民の圧倒的支持を受けて選ばれたことを忘れ、権力を盾に再開発事業を認可したとしたら、都民にとっては背任行為であり、都民の失望は極みである。

東京都知事並びに都民から選ばれた議員諸氏へ申し上げたい。神宮外苑の再開発という愚かな決断を改めることはできる。事業者から賛辞を受けるのか。それとも都民から信頼を受けるのか。残すべきものは何か。私は、東京都知事をはじめ、議員諸氏の英断を疑ってやまない。

神宮外苑銀杏並木
明治神宮